聖クルアーン
トップ » 聖クルアーン » ヤー・スィーン
本章は,冒頭の2字の省略語が章名とされ,マッカ中期の啓示といわれる。本章はムスリムが最も重んじる章の一つで,クルアーンの心臓といわれ,イスラームの骨子,ならびに啓示と来世についての教義が述べられる。それで精神の作興のため,また葬儀や故人の冥福を祈るさいなど,日常よく読誦される章である。
慈悲あまねく慈愛深きアッラーの御名において。  
ヤー・スィーン。1
   
英知に満ちた,クルアーンによって誓う。2
   
本当にあなたは,使徒の一人で,3
   
正しい道の上に(人びとを導く者である)。4
   
(これは)偉力ならびなく慈悲深き御方の啓示で,5
   
祖先がいまだ警告を受けず,それで気付かないでいる民に,あなたが警告するためのものである。6
   
本当にその御言葉が,かれらの多くの者に下ってしまっているのだが,かれらは信じない。7
   
われはかれらに首枷をはめ,それが顎にまで及ぶ。それでかれらの頭は上向きになった。8
   
またわれは,かれらの前面に陣壁を置き,また背面にも障壁を置き,そのうえかれらに覆いをした。それでかれらは見ることも出来ない。9
   
あなたが警告してもまた警告しなくても,かれらにとって同じで,かれらは信じない。10
   
あなたは,訓戒に従う者,また目に見えない慈悲深き御方を畏れる者だけに,警告しなさい。それであなたはこれらの者に,寛容と偉大な報奨の吉報を伝えなさい。11
   
本当にわれは死者を甦らせ,またかれらが予め行ったこと,そして後に残した足跡を記録する。われは一切を,明瞭な記録簿の中に数え上げている。12
   
町の仲間(の物語)を,例としてかれらに示すがよい。使徒たちがそこにやって来た時のことを。13
   
初めわれは,2人の使徒を遺わしたが,かれらは,2人とも嘘付き扱いをされた。それでわれは第3の者で強化した。そして使徒たちは言った。「本当にわたしたちは,あなたがたの許に遣わされた者です。」14
   
するとかれらは言った。「あなたがたはわたしたちと同じ人間に過ぎません。慈悲深き御方は何も啓示を下されはしません。あなたがたは,嘘をついているだけです。」15
   
かれら(使徒)は言った。「わたしたちが,実際あなたがたに遣わされた者であることは,主が御存知です。16
   
わたしたちの務めは,只あなたがたに明白(なアッラーの御命令)を宣べ伝えるだけです。」17
   
かれら(人びと)は言った。「わたしたちにとってあなたがたは確かな凶兆です。もし止めないならば,あなたがたを必ず石打ち(の刑)にしましょう。酷いめにあわせてやりますぞ。」18
   
かれら(使徒)は言った。「あなたがたこそ凶兆です。あなたがたは訓戒されても(尚そう言うの)ですか。いや,あなたがたは無法の民です。」19
   
その時町の外れから一人の男が走って来て,言った。「皆さん,(アッラーから)遣わされたこの人たちに従いなさい。20
   
あなたがたに何の報酬も求めない方たちに従いなさい。かれらは(正しく)導きを得ている。21
   
わたしを創られた方に仕えないなど,どうして出来ようか。あなたがたもかれの御許に帰されるのです。22
   
そのような御方を差し置いて,外の神々を求められましょうか。もし慈悲深き御方がわたしに災いを下そうと望まれるならば,かれら(邪神)の執り成しは少しも役立たず,またわたしを救うことも出来ません。23
   
(そうなるとしたら)明らかにわたしは誤りを犯したことになります。24
   
わたしは,あなたがたの(真の)主を信じます。だから(人びとよ,)わたし(の言うこと)を聞きなさい。」25
   
その時かれは,「あなたは楽園に入れ。」と仰せられた。そしてかれは「わが主の御赦しが与えられ,栄誉ある者の中に,26
   
加えられたことを入びとに知ってもらえたら。」と言った。27
   
かれの後,われはその民に対し天から軍勢を遣わしはしなかった。またそうするまでもなかった。28
   
只一声叫ぶだけで,かれらは消え失せてしまった。29
   
ああ,哀れなしもべたちよ。かれらは使徒が来る度,嘲笑してかかった。30
   
かれらは気付かないのか,自分たち以前に幾世代の者をわれが滅ぼし,かれらは2度と帰らないということを。31
   
それぞれ皆は,(審判の日)一斉にわれの前に召されよう。32
   
かれらへの印の1つとしては,われが死んだ大地を甦らせ,穀物をそれから生産し,それをかれらが食べることがあげられる。33
   
またわれは,そこにナツメヤシやブドウの園を設け,その間に泉を涌き出させる。34
   
かれらはその果実を食べるが,それはかれらの手が作り出したものではない。それでも感謝しないのか。35
   
かれの栄光を讃える。かれは大地に生えるもの,かれら自身も,またかれらの知らないものも,凡て雌雄に創られた方である。36
   
またかれらへの印には,夜がある。われがそれから昼を退かせると,見よ,真っ暗になる。37
   
また太陽は,規則正しく運行する。これも全能全知な御方の摂理である。38
   
また月には,天宮を振り分けた。(それを通って)ナツメヤシの老いた葉柄のように(細くなって)戻ってくる。39
   
太陽が月に追い付くことはならず,夜は昼と先を争うことは出来ない。それらは,それぞれの軌道を泳ぐ。40
   
また満載した舟に,われがかれらの子孫を運んだことも印の1つである。41
   
またわれはかれらが乗る,(外の便利な)乗物を創った。42
   
われが欲するならば,かれらを溺れさせることが出来る。そうなれば,かれらを助ける者はなく,救われはしない。43
   
只われの慈悲によって束の間を享楽するだけである。44
   
かれらに向かって,「あなたがたの前にあるもの,また後ろにあるものを畏れなさい。そうすればあなたがたは,必ず慈悲にあずかれるであろう。」と言われても(耳を貸すどころか),45
   
主からの種々の印が示されても,すっかり,背を向けてしまう。46
   
また,「アッラーがあなたがたに授けられたものを,施せ。」と言われると,不信心な者は信仰する者に言う。「アッラーが御望みなら,(御自分で)養われるという者を,どうしてわたしたちが養うことがありましょうか。あなたがたは,明らかに思い違いをしているだけです。」47
   
また,かれらは言う。「あなたがたの言うことが真実ならば,何時この(審判)の約束(が果たされるの)ですか。」48
   
だがかれらが論争している間に,一声の叫びが(突然)かれらを襲うだけではないか。49
   
その時かれらは,遺言することも,また家族のところに帰ることも出来ない。50
   
そしてラッパが吹かれると,かれらは墓場から(出て),主の御許に急いで行く。51
   
かれらは言う。「ああ,情けない。わたしたちを臥所から呼び起こしたのは誰でしょうか。これは,慈悲深き御方が約束なされた通りではありませんか。使徒たちの言葉は真実であったのですか。」52
   
只一声鳴り響けば,一斉にかれらはわれの前に召し集められる。53
   
その日には誰も,少しも不当な扱いを受けず,あなたがたは,只自分の行ったことに対し報いられる。54
   
本当に楽園の仲間たちは,この日,喜びに忙がしい。55
   
かれらはその配偶者たちと,木陰の寝床によりかかる。56
   
そこでかれらは,果実や望みのものを何でも得られる。57
   
慈悲深き主から「平安あれ。」との御言葉もある。58
   
あなたがた罪人たちよ,今日は離れて控えなさい。59
   
アーダムの子孫よ,悪魔に仕えてはならないと,われはあなたがたに命令しなかったか。かれはあなたがたの公然の敵である。60
   
あなたがたはわれに仕えなさい。それこそ正しい道である。61
   
確かにかれ(悪魔)はあなたがたの大部分を迷わせた。どうしてあなたがたは悟らなかったのか。62
   
これはあなたがたに約束されていた,地獄である。63
   
あなたがたは不信心であったために,今日そこに入るのである。64
   
その日われは,かれらの口を封じる。するとその手がわれに語り,かれらの足は,その行ったことを立証する。65
   
われが望めば,かれらの両目を盲目にすることが出来る。かれらは(天国への)道を先んじようとするが,どうして見通すことが出来ようか。66
   
われが望めば,かれらをその場所で形を変えることも出来る。そうなればかれらは,行くことも帰ることも出来ない。67
   
誰でも長寿させるさいには,われは創造を逆に戻らせよう。かれらは,それでも悟らないのか。68
   
われはかれ(ムハンマド)に詩を教えなかった。それはかれに相応しくない。これは(アッラーの)訓戒まごうかたないクルアーンであり,69
   
生ける者に警告を与え,また不信心な者に対してはは御言葉が下される。70
   
われが手ずからかれらのために創った家畜をかれらに所有させているのを見ないのか。71
   
われは,それをかれら(の用)に服させた。それで,かれらはこれに乗り,そして食べる。72
   
またかれらは(その外にも)いろいろそれを利用し,また飲みものを得る。それでもかれらは感謝しないのか。73
   
かれらは,アッラーの外に邪神を選び何とか助けられようとする。74
   
それら(邪神たち)は,かれらを助ける力はなく,寧ろかれらの方が邪神を守るため軍備を整えている始末。75
   
あなたはかれらの言うことで,悲しんではならない。本当にわれは,かれらの隠すことも現わすことも知っている。76
   
人間は考えないのか。われは一精滴からかれを創ったではないか。それなのに見よ,かれは公然と歯向っている。77
   
またかれは,われに準えるものを引合いに出して,自分の創造を忘れ,言う。「誰が,朽ち果てた骨を生き返らせましょうか。」78
   
言ってやるがいい。「最初に御創りになった方が,かれらを生き返らせる。かれは凡ての被造物を知り尽くしておられる。79
   
緑の木から,あなたがたのために火を造られたのもかれであり,だからこそあなたがたはそれによって燃やす。」80
   
天と地を創造なされたかれが,これに類するものを創り得ないであろうか。いや,かれは最高の創造者であり,全知であられる。81
   
何かを望まれると,かれが「有れ。」と御命じになれば,即ち有る。82
   
かれにこそ凡ての称讃あれ。その御手で万有を統御なされる御方,あなたがたはかれの御許に帰されるのである。83