聖クルアーン
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本章はビザンチン(東ローマ)軍がペルシャ軍に対して勝利を得,またイスラームは最後の勝利を得ることの預言となるにちなみ,ビザンチン章と名付けられる。その啓示の年代は,イスラーム暦前の6または7年(西暦615−616)ころである。西暦613年ペルシャ軍は,アラビアに接する地域において東ローマ帝国の軍勢を破り,遠く追撃して615年には,首都のコンスタンチノープルも危うくなったときのことである。当時マッカのクライシュ族は,キリスト教を幸ずるビザンチン(東ローマ帝国)の敗北を喜び,かれらと同じ沌正の唯一神,アッラーを信奉する聖預言者ムハンマドの運命につき,嘲笑したのである。ところが本章の預言は現実となり,624年のバドルの役において,クライシュ族は徹底的にムスリム軍に第一撃を加えられ,また625年には,東ローマはペルシャに対し決定的勝利を博した。本章では,時の問題とその神秘が,歴史との関連を背景とし,またあらゆる点における社会の進歩をその背景として記される。およそ人間によって広められた腐敗は,来世を指向するアッラーの世界的計画の下に清められる。なお,その他の諸問題については,次の31章及び32章において提示されている。また本章に続く3章はいずれも過去,現在,未来を表徴するとも考えられている,アリフ・ラーム・ミームの3つの省略語で始められている。 内容の概説 第1−19節,ペルシャと東ローマ帝国の闘争で象徴するような,世俗的努力の満ち潮と引き潮は,外面上の出来事にすぎない。善と悪がいかに最後の結末に到達するかという,深奥の意味は,アッラーの働きにある。第20−40節,人間の肉体上,道徳上ならびに精神的進歩の上の相違仁,いつも自然の理法と信仰の単一性に由来している。ゆえに人間はアッラーから離れることなくかれを譲えるべきで,かれのみ力こそ成功の根源である。第41−60節,イスラームは必ず勝利を得る。それは人間の天性に添うものであり,また人間の自然のままの信仰の,あらゆる必要に答えるものであるためて,人間の通有性に訴える教えイスラームは,世界的に受け入れられるであろう。
慈悲あまねく慈愛深きアッラーの御名において。  
アリフ・ラーム・ミーム。1
   
ビザンチンの民は打ち負かされた。2
   
近接する地において(打ち負かされた)。だがかれらは,(この)敗北の後直ぐに勝つであろう。3
   
数年の中に(勝利を得よう)。前の場合も後の場合も,凡てはアッラーに属する。その日,ムスリムたちは喜ぶであろう。4
   
アッラーの勝利を(喜ぶであろう)。かれは御望みの者を助けられる。かれは偉力ならびなく慈悲深き御方であられる。5
   
(これは)アッラーの約束である。アッラーはその約束を違えられない。だが人びとの多くは理解しない。6
   
かれらの知るのは,現世の生活の表面だけである。かれらは(事物の)結末に就いては注意しない。7
   
かれらは反省しないのか。アッラーが天と地,そしてその間にある凡てのものを創造なされたのは,唯真理のため,また定めの時のためであることを。だが人びとの多くは,主との会見を否認する。8
   
かれら(マッカの多神教徒)は,地上を旅してかれら以前の者の最後が如何であったかを,観察しないのか。かれら(昔の人)は,かれらよりも力において優れ,地を掘り起こし(て耕作し),またかれらよりも栄えていた。そして使徒たちは明証を持ってかれらのところに来た。アッラーがかれらを損ったのではない。かれらが自ら自分を損ったのである。9
   
所詮悪行の徒の最後は悪い。それはかれらがアッラーの印を虚偽であるとし,それを愚弄していたためである。10
   
アッラーはまず創造を始め,それからそれを繰り返し,それからあなたがたをかれに帰される。11
   
(審判の) 時が到来する日,罪のある者は絶望するであろう。12
   
そしてかれらが(われに)配した(神々の)中には,かれらのために執り成す者もなく,またかれらも,これらの配したものたちを否認する。13
   
(審判の)時が到来するその日には,(凡ての人は)ちりぢりにされるであろう。14
   
その時,善行に勤しんだ者は,緑の野辺で,幸せにされよう。15
   
信仰を拒否しわが印と来世での(主との)会見を虚偽であるとした者は,懲罰に付せられよう。16
   
それで,夕暮にまた暁に,アッラーを讃えなさい。17
   
天においても地にあっても,栄光はかれに属する。午后遅くに,また日の傾き初めに(アッラーを讃えなさい)。18
   
かれは,死から生を(打?)し,また生から死を(打?)され,また枯れ果てた大地を甦らせる。これと同じようにあなたがたも引き出される。19
   
かれが,泥からあなたを創られたのは,かれの印の一つである。見るがいい。やがてあなたがた人間は(繁殖して地上に)散らばった。20
   
またかれがあなたがた自身から,あなたがたのために配偶を創られたのは,かれの印の一つである。あなたがたはかの女らによって安らぎを得るよう(取り計らわれ),あなたがたの間に愛と情けの念を植え付けられる。本当にその中には,考え深い者への印がある。21
   
またかれが,諸天と大地を創造なされ,あなたがたの言語と,肌色を様々異なったものとされているのは,かれの印の一つである。本当にその中には,知識ある者への印がある。22
   
またかれが,あなたがたを夜も昼も眠れるようにし,またかれに恩恵を求めることが出来るのも,かれの印の一つである。本当にその中には,聞く者への印がある。23
   
またかれが,恐れと希望の稲光をあなたがたに示しなされ,天から雨を降らせて,死んだ後の大地を甦らせられるのは,かれの印の一つである。本当にその中には,思慮ある者への印がある。24
   
またかれが,御意志によって,天と地を打ち建てられたのは,かれの印の一つである。そこで,(一声)あなたがたに呼び掛けられると,見るがいい。たちまち大地からあなたがたは(引き)出される。25
   
天と地にある凡てのものは,かれに属する。万有は,真心込めてかれに服従する。26
   
かれこそは先ず創造を始め,それからそれを繰り返される御方。それは,かれにおいてはとてもた易いことである。天と地における,(考え得られる)最高の姿は,かれに属する。かれは偉力ならびなく英明であられる。27
   
かれは,あなたがた自身(の経験)から,一つの譬えを提示なされる。あなたがたは,自分の右手の所有する者たち(奴隷)を,われがあなたがたに与えたものを同等に分配する仲間にするだろうか。あなたがたが互いに気付かうように,かれら(奴隷たち)に気兼ねするだろうか。(そうではあるまい)。このようにわれは,思慮ある者に印を説き明かす。28
   
いや,不義を行う者は知識もなく私利私欲に従う。アッラーが迷うに任せられた者を,誰が導けようか。かれらには救助者はないであろう。29
   
それであなたはあなたの顔を純正な教えに,確り向けなさい。アッラーが人間に定められた天性に基いて。アッラーの創造に,変更がある筈はない。それは正しい教えである。だが人びとの多くは分らない。30
   
悔悟してかれに返り,かれを畏れなさい。礼拝の務めを守り,偶像信者の仲間になってはならない。31
   
それは宗教を分裂させて,分派を作り,それぞれ自分の持っているものに喜び,満足している者。32
   
災厄が人びとを悩ます時かれらは悔悟して主に祈る。だがかれが,慈悲をかれらに味わせると,たちまち一部のをは主に(外の神々を)配し,33
   
われが与えたものを有り難く思わないようになる。(僅かの年月を)享楽するがいい。 だがやがて分るであろう。34
   
われに配しているものを支持する権威を,われがかれらに下したとでもいうのか。35
   
われが人間に慈悲を味わせると,かれらはそれに狂喜する。だが自分の行いのために災厄が下ると,たちまち,かれらは絶望する。36
   
かれらは見ないのか,アッラーが御望みの者に,糧を増し,また減らしなされるのを。本当にその中には,信仰する者への印がある。37
   
それで近親の者に,しかるべきものを与えよ。また貧者と旅人にも。それは,アッラーの慈顔を求める者たちにとり,最も善いことである。これらは,栄える者たちである。38
   
あなたがたが利殖のために,高利で人に貸し与えても,アッラーの許では,何も増えない。だがアッラーの慈顔を求めて喜捨する者には報償が増加される。39
   
アッラーこそは,あなたがたを創り,扶養され,次いで死なせ,更に甦らせられる方である。あなたがたが(捏造しかれに)配したものの中,これらのことの一つでも出来るものがあるか。かれに讃えあれ。かれはかれらが配するものの上に高くおられる。40
   
人間の手が稼いだことのために,陸に海に荒廃がもう現われている。これは(アッラーが),かれらの行ったことの一部を味わわせかれらを(悪から)戻らせるためである。41
   
言ってやるがいい。「地上を旅して,(あなたがた)以前の者たちの最後が,どうであったかを観察しなさい。かれらの多くは多神教徒であった。」42
   
それでアッラーから避け得ない日が来る前に,あなたの顔を正しい教えにしっかり向けなさい。その日かれらは(2群に)分けられよう。43
   
不信心の者は,その不信心のために責めを負う。また正しい行いの者は,自分自身のため(天国に)褥を用意するようなもの。44
   
信仰して善行に動しむ者には,かれは恩恵により報われる。本当にかれは,不信心者を御好みになられない。45
   
吉報の前触れとして風を送るのは,かれの印の一つである。あなたがたにかれの慈悲(降雨と肥次)を味わわせるためであり,またかれの御意志により舟を滑るように進ませ,またあなたがたは,かれの恩恵(海上貿易による利益)を求めるためである。あなたがたは必ず感謝するであろう。46
   
本当にわれはあなた以前にも,使徒たちを(それぞれの)民族に遣わし,かれら(使徒)は,かれらに明証を(西?)した。そしてわれは,罪を犯した者に報復した。だが信仰する者を助けるのは,われの務めである。47
   
アッラーこそは,風を送りそれで雲を起こされる御方であられる。それから御心のままに天にそれを広げ,粉微塵にそれを打ち砕かれる。するとあなたは,その間から出て来る雨滴を見る。かれは,そのしもベの中,御心に適う者にそれを降らせられる。見るがいい。かれらの喜ぶ様子を。48
   
かれらに(雨を)降らせる前,失望にうちひしがれていたのだが。49
   
さあアッラーの慈悲の跡をよくみるがいい。かれが如何に,死んだあとの大地を甦らされるかを。このようにかれは,死んだ者を甦らせる。かれは凡てのことに全能であられる。50
   
だが,われが風を送っても,(作物が)黄ばむのを見ると,その後かれらは,必ず不信心になる。51
   
あなたは,死者にものを聞かせることは出来ない。また,背を向けて逃げ去る聞こえない者に,呼び掛けても聞かせることは出来ない。52
   
またあなたは,(ものごとの)分らない盲目を,迷いから導くことも出来ない。あなたは,只われの印を信じて服従,帰依する者だけに,聞かせることが出来るのである。53
   
アッラーは,あなたがたを弱い者に創られ,それから弱い者を後で,強壮にされ,強壮な者を弱い白髪になされる。かれは御自分の望みのままに創られる。かれは全知にして全能であられる。54
   
(精算の)時が,到来するその日,罪深い者たちは,わたしたちは一時しか(墓に)留まらなかったと誓うであろう。このように,かれらは欺かれていた。55
   
だが知識と信仰を授かった者たちは,言うであろう。「あなたがたはアッラーの定めに基いて,復活の日まで確かに滞在しました。これが復活の日です。だがあなたがたは気付かなかったのです。」56
   
だがその日になってからでは,悪を行った者の弁解も益がなく,またかれらは(悔悟して御恵みを請う)ことも出来ないであろう。57
   
本当にわれは人びとのため,このクルアーンの中に種々の譬えを提示した。だがあなたが,仮令どの一節を持ち出しても,信じない者は必ず,「あなたがたは虚偽に従う者に過ぎません。」と言うであろう。58
   
このようにアッラーは,理解しない者の心を封じられる。59
   
だから耐え忍ベ。本当にアッラーの約束は真実である。確りした信心のない者たちのせいで,あなたまでが動揺してはならない。60